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現地でのエピソード 第七話~移植不適応について~ 2019年03月18日

折角、海外まで行ったのに検査の結果、ハイリスクな患者として移植治療が受けられない『移植不適応』となってしまうケースがあります。
昨年も3名(腎臓と肝臓)の方々が残念ながら、移植が受けられずご帰国となりました。本人とご同行されたご家族も大変悔しくもあり、無念だったと思います。
 近年、移植手術適応基準のハードルが年々高くなっているので、その事情をご説明いたします。
患者側からすれば多額のお金を用意し、相当な決心をして現地入りしたのに、手術不可となれば、その失望たるは並大抵ではなく、取り乱されたり、感情的になる方もいらっしゃいます。
 ある腎移植を希望された50代の男性は、当人が内科医でもあり『日本の医者は問題ないとはっきり言っている。なぜやらないんだ!』と怒り、別の肝移植を希望された患者様 (60代)は『あと1千万円出すから手術をしてくれ』と申されましたが、金額の問題ではなく判定が覆ることはございません。
続けて『死んでもいいから、手術をやってくれと頼んでもダメか』さらに『移植をしなければお前たちだって一銭も儲からないじゃないか』『このまま日本へ帰っても死ぬだけだ、何とか頼む!』等、冷静ではいられず、サポートする私達も断腸の想いですが、どうする事も出来ません。移植費用の返金をして日本へ帰るしか方法はないのです。
 それでは、何故日本の病院では移植が適応だった患者様が、現地では不適応になってしまうのか、理由は大きく2つあります。
まず、不適応の主な理由は①心機能の低下②重い糖尿病③肥満体④ガン転移の疑い⑤血管の著しい劣化⑥総合判断
①④⑤は納得しても、②③は日本で通常行うケースでも、現地では不可となる事があり、特に⑥は特定の原因が無いのに年齢等を勘案し、不適応と言われ、患者様が憤慨されるのも無理はありません。実際の所、⑥で不可となるケースが一番多いのです。私どもが案内する移植センターには世界中から移植を希望される患者様が見えられます。
心臓・肺臓・肝臓・腎臓と、最近では心肺同時移植も行われています。昨年は約800例の各種移植が実施されていますが、移植希望者全員の手術はドナーが少なく行えない現実があります。
そうなると、執刀医はリスクの少ない患者を選ぶ傾向になります。私どもNPO法人は病院との提携であり、10数年前と違い基本的には外科医個人との取引や契約ではないので、現在では手術の可否について協議することは出来ないのです。また、私達が病院側に陳情したとしても、病院サイドが外科医に手術を命令することはありません。もっと正確に申しますと、手術の可否は外科医が承諾しても、循環器や内科医の承諾が得られなければ行われません。
日本とは違い、内科医が最終判断をします。これは欧米の多くの病院も同じです。外科の判断に任せると難易度の高い手術やハイリスクのチャレンジ的手術も自身の技量向上や名声の為に強行してしまう恐れがあるからです。
 参考までに、移植センターは問診・手術・ICU・病棟、それぞれ分業となっており、日本のように主治医(外科医)が初診から手術・ICU・病棟・退院まで担当する仕組みになっていません。外科医は手術及び術後のフォローアップだけ、ICUの医師はICU内だけ、病棟は病棟内だけ担当します。
これについても、多くの欧米の病院と同じシステムです。分業システムなので移植センターは複数の移植チームで年間800例以上の手術が行われるのです。
腎移植の女性外科医は米国帰りで肥満の患者様には特に厳しく『自己コントロールできない人は臓器を貰う権利はありません』とキッパリ断られ『あと8kg減量したら再度来てください』と言われた患者様もいました。
 手術に慎重になる、もう一つ大きな理由があります。
もし、患者様が術後死亡された場合、私どもは死亡証明書を受け取る為、日本大使館へ連絡します。連絡を受けた大使館は事件性(殺人)の有無を確認する為、最寄りの公安(警察)へ捜査を依頼されます。捜査員は病院へ来て、日本人の渡航目的や病状等を各医師から聞き取り、調書を作成し、大使館だけではなく、監督官庁等へも、外国人の死亡なので報告されます。なんら後ろめたいことはないのですが、日々忙しくされている医師にすれば、公安の取り調べは正直なところとても骨が折れる話です。そのような事から少しでも死亡の恐れがある患者様の移植手術は避けるようになってしまいました。
 私たちが活動を始めた十数年前は歩く事も出来ない、末期の肝不全の患者様でも、空港へ救急車を手配し、移植手術をした事は何度もございました。まさに死の淵からの生還で、今でも本人やご家族と会えば、ドラマか映画の様だったと話します。当時は今と違い、各セクションの医師と夕食を共にし、フレンドリーでした。
患者と医師との個人交流が原則禁止になってからは、全てが事務的になってしまった感があります。それは良い面もあるのですが、リスクのある患者様にとっては生死に関わる事にもなります。近年では透析期間の長い方も移植不適応となっています。長々と記述しましたが、申し上げたい事は、国内であっても海外であっても余裕を持って移植の判断をなさって欲しいのです。 
※以前は71歳以上の患者様は、移植不適応として手術は断られていたのですが、近年では75歳以上でも無事移植を終えお元気にされている患者様もいらっしゃいます。もちろん75歳以上の移植が可能となる条件に、前述した①~⑥の基準にパスしなければなりませんが、以前にくらべ移植関連の技術向上による、術後成績が向上したことにより、移植適合可否の基準がゆるくなったからと言えます。高齢ではあるが適合検査だけ受けてみたいといった患者様も多くいらっしゃいます。私どもから渡航を催促する事はございませんので、もし海外での治療を考えていらっしゃる方がいれば、情報だけでも提供いたします。海外の現状、手術費用、現地での様子、待機時間、帰国後の治療、私どもの活動内容や資料を添えて教示しますのできっと役には立つかと思います。




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